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東京地方裁判所八王子支部 昭和38年(ワ)108号 判決 1968年7月10日

原告 飯倉茂兵衛

右訴訟代理人弁護士 平原謙吉

平原昭亮

被告 小林あい事

西野

右訴訟代理人弁護士 鈴木俊光

主文

被告は原告に対し一五万四二三八円及びこれに対する昭和三八年三月二〇日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告勝訴部分に限り、原告において金五万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

桜岡富雄が田中仁を債務者として、田中仁所有の別紙目録記載の不動産(以下本件各不動産と称する)について、東京地方裁判所八王子支部に対し、同庁昭和三二年(ヌ)第一一号不動産強制競売の申立をなし、原告は右競売期日に本件各不動産を代金四〇万九一〇〇円で競落し、昭和三三年五月一二日競落許可決定がなされ、同月一九日右決定は確定し、原告は右競落代金四〇万九一〇〇円及び遅延損害金四〇四四円、合計四一万三一四四円を同裁判所に納入し、その所有権を取得したこと、同裁判所は昭和三三年九月一七日右売得金のうちから、配当金として、債権者三田野福太郎に五万円、同桜岡富雄に一〇万九七九五円を交付したほか、被告に対し一五万四二三八円を交付したことは当事者間に争がない。

しかして≪証拠省略≫によると、本件各不動産には、本件強制競売申立の登記前に、久保田篤次郎を権利者とする昭和三二年一月二二日東京法務局青梅出張所受付第七七号を以て、昭和三一年一二月二〇日売買予約による所有権移転請求権保全の仮登記が存在していたところ、久保田篤次郎は田中仁との間に昭和三三年一月三一日頃、右売買予約を完結せしめ、昭和三四年二月二一日、本件各不動産につき同人のための所有権移転登記を経由したこと、そこで久保田篤次郎は原告を相手取り昭和三三年一月末頃の右売買予約完結を主張して、当庁昭和三三年(ワ)第四九一号所有権確認、第三者異議事件として、同人が本件各不動産の所有権を有することの確認を請求し、右は審理の結果、東京地方裁判所八王子支部で同人がこれが所有権を有する旨の確認判決がなされ、右判決は昭和三七年三月二九日確定し、原告は前記久保田篤次郎のための所有権移転本登記がなされた以降は、本件各不動産の所有権を喪失したこと、そこで原告は田中仁に対し、昭和三八年二月二五日書面を以て、前記の理由で所有権を失ったので、本件各不動産の競買を解除する旨の意思表示を発し、同書面は翌二六日同人に到達したことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。更に、≪証拠省略≫によると、田中仁は原告に対し競売代金を返還する資力を有しないことが認められ、右認定に反する証拠もない。

そこで原告は、本件の如き場合には、競落代金から配当を受けた債権者に対して、民法第五六八条、第五六一条の準用により、同人が受領した配当金の返還を請求し得ると主張するので、この点につき考える。

一般に不動産の強制競売において、債務者は競落人に対し留置権、質権等民事訴訟法が明定する場合を除き一般の売買におけると同様に、完全な所有権を取得させる義務を負うものと解しなければならない。従って競売不動産に競落人に対抗し得る所有権移転請求権保全の仮登記が存する場合においては、債務者は競落人に対してその仮登記を抹消して競落人がその権利追奪されないようにするという防止義務を負うものと解する。債務者が追奪防止義務を怠ったことから、仮登記が本登記に高められた場合には、債務者は競落人に対して、所有権移転登記義務の履行が不能となったものとみて、他人の物の売主がその売却した権利を取得してこれを買主に移転することが不能となった場合の売主の責任に関する民法第五六一条を類推適用して、仮登記が本登記に高められたため所有権を失った競落人は直ちに競買の解除をなし得るものと考える。蓋し、所有権移転請求権保全の仮登記のある不動産の強制競売の場合に、仮登記があるまま最終段階まで強制競売手続の執行を許す民事訴訟法の立前からみて、また現に右に従っている実務の取扱いからみて、仮登記による制限がある場合には債務者に対して担保責任を認めなくては、競落人の保護に欠くることとなるからである。従って仮登記による制限がある不動産の競売の場合には、民法第五六八条、第五六一条の類推適用があるものとみて、競落人は債務者に対して競買の解除権を有し、債務者が無資力の場合には、代金の配当を受けた債権者に対し、配当額を限度として、代金の返還を請求し得るものとする同法第五六八条第二項の適用があると解すべきである。

しかして右解除権は、競落人が仮登記の存在を知って競買の申出をした場合にも発生し、且つ行使し得ることは前記準用した民法第五六一条の規定からも明らかなところであるから、被告のこの点の抗弁は採用し難い。

果して以上のとおりであるとすれば、原告が田中仁に対してなした競買の解除は有効であり、また債務者たる右田中が無資力であることは前記認定のとおりであるから、被告は原告に対し民法第五六八条第二項により被告が配当を受けた限度において競買代金を返還すべきものである。ところで競売事件の債権者の民法第五六八条第二項に基づく代金返還債務は、期限の定めのない債務と解せられるので(大審、大正一二年五月二三日判決、民集第二巻七号三一六頁参照)、本訴提起前に被告に対してその履行の請求をした旨の主張も立証もない本件にあっては、被告は本訴の提起を以てその請求を受けたものというべく、被告に対する本件訴状の送達の翌日が昭和三八年三月二〇日であることは本件記録上明らかである。従って被告は昭和三八年三月二〇日以降右代金返還債務の履行遅滞に陥っているものというべきである。

すると被告は原告に対し、民法第五六八条、第五六一条の準用により、配当金一五万四二三八円及び右金員に対する昭和三八年三月二〇日以降完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があり、被告に対し右金員の支払いを求める限度において原告の本訴請求は正当であるが、右を超える部分については失当として棄却を免れない。

よって訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条但書を、原告勝訴部分に対する仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 西岡徳寿)

<以下省略>

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